薬局の歯科用品コーナーに立ち寄ると、歯周病予防をうたった歯磨剤が棚いっぱいに並んでいます。お店によっては、そうした商品が全体の8割を超えているように感じることすらあります。
私自身、こうした売り場を見るのは嫌いではありません。歯周病という言葉に目を留め、関心をもつきっかけになることは、患者さんにとっても悪いことではないと思います。ただその一方で、「この歯磨き粉を使えば歯周病が治る」といった誤解が生まれてしまう構図には、どうしても懸念を抱かざるを得ません。
私は原則として、「歯磨剤は使用しない方が望ましい」と考えています。理由は明快で、歯周病予防の本質が“物理的清掃”にある以上、歯磨剤はむしろ清掃効率を下げるからです。
泡立ちや香味といった感覚的な要素によって、「しっかり磨けた」と錯覚してしまうこともあります。ですが実際には、細かな部分の磨き残しや、早めのブラッシング終了につながってしまうこともあり、本来の目的から外れてしまうことさえあるのです。
市販の歯磨剤製品は、CMやパッケージデザインによって「口腔の問題を解決する万能薬」のような印象を与えています。
たとえば、以下のような“期待”が一般的です。
「◯◯成分が入っているから、これだけで歯周病が治る」
「ホワイトニング効果があるから、歯が白くなる」
「知覚過敏に効くと書いてあるから、使えば治る」
しかしこれらは、いずれもあくまで“補助的な作用”に過ぎず、歯科的処置の代替にはなりません。歯磨剤の多くは薬機法上「医薬部外品」に分類され、効能・効果には限界があります。
特に歯周病については、主因子がプラークである以上、物理的な除去(=ブラッシング)こそが本質的な治療行為です。どれほど薬効成分が含まれていても、それが歯周ポケット内部に有効濃度で届き、継続的に作用するとは考えにくいです。
このような誤解が患者さんに生じるのはある意味仕方のないことではありますが、それを助長するような商品設計・広告表現に対しては、歯科医療者として冷静に距離をとるべきではないでしょうか。
むしろ私たちは、患者さんの選択を尊重しながらも「本当に必要なケアとは何か」をともに考える姿勢が求められています。
「歯周病予防に歯磨剤は必要ない」――これは、専門家として明確に言い切ります。
歯磨剤の中でも、フッ化物配合製品はう蝕予防に対して確かな有効性があります。そのため、以下のようなケースではむしろ積極的に使用を推奨しています。
小児・青年期(おおむね20代前半まで)
象牙質露出がみられる成人
カリエスリスクが高い患者さん(口腔乾燥症、矯正治療中など)
こうした方々には、年齢やリスクに応じたフッ素濃度の製品を選び、日常的に使っていただくよう指導しています。
また、歯周病リスクとう蝕リスクの両方が高い方については、まずは何もつけずに丁寧に磨いていただいた上で、最後にフッ化物配合歯磨剤を塗るように使用してもらいます。
こうした意味では、フッ化物配合歯磨剤は「歯磨剤」として使用しているとは言い難いのかもしれません。
歯磨剤の中には、知覚過敏やホワイトニング効果をうたった製品も多く見られます。
たとえば知覚過敏抑制成分としては、硝酸カリウムや乳酸アルミニウムなどがありますが、知覚過敏の本質的な原因が、咬合力の異常や象牙質の露出にある場合も多く、表面的なケアだけで改善を図るのは難しいこともあります。
その意味で、知覚過敏用の歯磨剤は一時的な使用にとどめ、根本原因への対応を並行して行うことが大切です。
また、ホワイトニングに関しては、私自身、唯一「歯磨剤らしい歯磨剤の使い方」ができる分野かもしれないと感じています。
ただし、ここで言う「ホワイトニング」とは、歯そのものを漂白することではなく、表面の着色(ステイン)を落とす、あるいは付きにくくするといった、あくまで審美的な補助作用です。
その点をご理解いただいた上で、日々のケアのなかで、定期的なクリーニングまでの間に着色を少しでも防ぎたいという方には、使用を提案することもあります。
ただしその際には、酸性の成分や、ポリリン酸ナトリウムのように歯質に影響を及ぼす可能性のある成分が含まれていないか、研磨力が過剰でないかといった点にも配慮が必要です。
歯磨剤は、口に入れてすぐに吐き出すものでありながら、毎日体内に取り込む可能性のある製品でもあります。
だからこそ、私たち歯科医療従事者は、その成分に対する基本的な理解と説明責任を持っていたいと考えています。
たとえば、
ラウリル硫酸ナトリウム(SLS):発泡剤としてよく使われますが、粘膜刺激性があり、口内炎や口腔乾燥のある方には適さないこともあります。
人工甘味料(サッカリン・ソルビトールなど):味付けのために使われますが、甘味によって子どもが喜んで使うという理由だけで製品を選ぶのは避けたいところです。食育の観点からも、味ではなく「目的」で選んでいくことが大切です。
最初にも書いたように、私は薬局に立ち寄ると、つい歯科用品の棚を眺めてしまいます。
これを読んでくださっている皆さまの中にも、同じような方がいらっしゃるかもしれません。
ずらりと並んだ歯磨剤のパッケージを見ていると、どこか楽しく、興味深く感じるものです。
患者さんに「おすすめの歯磨剤はありますか?」と尋ねられたとき、どのように答えるのがよいのか――
これからも、じっくり考えていきたいと思います。
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